末一手

どうもテンで置かれてしまう。末脚勝負に徹してどこまで。

幼少期の競馬事情②

茶の間のテレビでは、フジテレビの競馬中継が流れている。

じいちゃんは、座卓にティッシュを何枚か広げ、そこに柿ピーをザラザラと盛る。
それをポリポリとつまみながら、濃い目の煎茶を啜っている。


このシーン、幼少期の俺には興味の無いもので占められている。


馬が走って順位を競うなんて興味が無いし、柿ピーなんかより缶詰のフルーツミックスが食べたい。
濃い煎茶なんて苦いもんより、バヤリースのオレンジが飲みたいんだ。


そんな茶の間に居座るわけもなく、階段を駆け上がって二階で真っ赤なおもちゃ箱をひっくり返す。

乗り物大集合のVHSを流しながら、プラレールの青い線路を部屋の中に張り巡らせるのが、よくある日曜日の過ごし方だった。




そんなある日、不意に競馬に触れる機会が訪れる。




4歳違いの弟が生まれ、親父の仕事が忙しかったのもあって、休みの日はじいちゃんと出かけることが多かった。

電車が好きなガキだったから、出かける先は大体決まっていた。
田園都市線に乗って、高津にある電車とバスの博物館
たまに都心まで出て、秋葉原交通博物館

今でも総武線に乗ると自然と心が踊ってしまうのは、この時の記憶が強いんだろう。



その日は、特にどこに行くとも言われずに、じいちゃんに着いていった気がする。

正直、行き帰りの記憶は無い。
ただ、今でもはっきりと覚えている光景がある。




「薄暗い空間に、窓口がずらっと並んでいる」




人影はまばらだった。
幼少期の俺には衝撃的な光景。

馬を見た記憶もない。
覚えているのは窓口の光景だけ。
券売機ではなく、手売りの窓口だった。


当時、じいちゃんの本拠地は大井競馬だったから、あれは多分大井競馬場だったんだと思う。
じいちゃん、どうしても買いたいレースでもあったのか。


そして家に帰って、家族に「どこへ行ってきたの?」とでも聞かれて、「ジジと競馬場行った」と答えたんだろう。

じいちゃんは、ばあちゃんに「子どもを競馬場なんかに連れてって!」と怒られたらしい。


まぁ、そう言われても仕方ない。
当時の競馬場なんて、子どもが行くような場所ではないだろう。



こうして、ふとしたことで競馬に触れてしまったものの、競馬への興味は湧かなかった。

そこから小学生、中学生になってもそれは変わらなかった。

高校生になったところで・・・
あの馬が世間を湧かせることになる。